ここ最近、AN活動家として重要な経験が続いたので、半分は自分で読み返せるように記録しておきたいという理由でこのブログポストを書くことにします。
無生殖協会のウェブサイトを通じてENCOUNTというニュースサイトからの取材依頼を受けた時、受諾すべきかどうか迷いました。
サイトを覗いてみると、正直なところとても上品で洗練された印象は受けませんでしたから、取材での発言を妙な仕方で切り取られてANの評判を下げることになる可能性が頭をよぎったのです。
結果としては、受諾するのが正解でした……が、その理由は私が考えていたものとは少々異なるものでした。
記事は日本で進む少子化から発想してANを取り上げ、ANとは何なのか、支持者にどんな動機があるのか、何を目指したいのかなどを研究者や支持者のインタビューから探る、(多くない中では)よくある、またはよくありそうなタイプのものです。
取材先は我々を含めて(少なくとも)3者――森岡正博氏、ミユキ(仮名)氏、そして私が代表する無生殖協会です。
この記事で、森岡氏はいつものように「誕生否定」と「出産否定」を持ち出してANの歴史を解説し、ミユキ氏は自らの経験した地獄の苦痛をAN支持のきっかけとして挙げています。
もちろんミユキ氏が「私の人生は悪い、だからヒトは生殖してはならない」と記事内で言っているわけではありません(し、インタビューでもそんなナンセンスは言わなかったはずです)。
しかし、森岡氏とミユキ氏だけがこの記事で取り上げられていたならば、「反出生主義」と呼ばれる立場は自身の誕生に関する個人的な嘆きでしかなく、真剣な扱いに値しないと思われてしまう可能性がより高くなっていたことでしょう。
ですからそのような誤解をはっきり誤りだと言える機会を与えられたことは(我々にとってではなく、我々の仕事の影響で存在開始を免れる有感生物の意識たちにとって)幸運です。
もちろん Yahoo! ニュースのコメント欄を見れば、私が取材を受けたことでそのような誤解の起こる可能性が「なくなった」とは残念ながら言えないことが分かりますが。
東京都で受けたインタビュー自体は満足できるものでした。
言うべきことはほぼ全て言えたと思います。
ただこれは単独インタビュー記事ではないので、完成した記事を読んでみれば、記事の流れの中で必要とされる部分だけが私の発言から取り出されているな、とは感じられます。
当然ではあるので驚くべきことではありませんし、まして記者さんを責めるつもりはありませんが。
例えば「我々は『人種差別をしてはならない』と全く同じ強さで『生殖をしてはならない』と言っている」、「『差別主義は誤っている』という主張の正誤は、被差別者が言っても、差別者が言っても、第三者が言っても変わらない」など(取材時にはもしかすると差別主義ではなく別の例を使ったかも知れませんが)は記事に書かれていることと同じくらいかそれよりも大事な話ですが、載ることはありませんでした。
また、文中の私のセリフは全て記者さんが私の発言に基づくメモからパラフレーズしたものなので、私が自分で書くなら絶対にしないような「雑な」言葉選び(苦痛を感じる『存在』、絶滅『すべき』、『反出生主義を否定』など)が多く見られるのも残念です。
ただ、記事全文のうち私の発言に関わる部分をチェックする機会は頂いていて、そのうち比較的重要と思われた2ヶ所は私の指摘通りに変えてもらえたので、他の部分の言葉選びについてももう少しプッシュするべきだったということでしょう。
似たような取材を次に受ける時はそうしてみます。
この取材の2週間後には、『An Antinatalist Handbook』(反出生主義者のハンドブック)の46-60章が日本語版に追加され、ハンドブックのウェブサイトで閲覧可能な状態になりました。
最初の30章とは異なり、翻訳に関与していたのが私だけだったので、恐ろしく長い時間がかかってしまいました。
私の翻訳作業が終わって校正の段階に移った時に協力してくださったのは、無生殖協会の会員のうちの数名です。
とりわけそのうちの1名は、多大な時間と労力を割いて、綿密で的確な賢い編集提案をしてくださいました。
46章以降が急に読みやすくなったと感じられるならば、それは私一人では絶対に届かなかったであろう高い品質を、校正者が親切にも莫大なリソースを使って実現してくださったからです。
8億人のヒトの中には、努力して高い能力を身につけて、それを積極的に善いことに使う人々がいます。
そのような人々の一部と仕事ができることは本当に名誉なことです。
とりわけ今回は、校正の品質が期待よりもはるかに高かったので、大変な驚きを伴う名誉でした。
まさか自分の人生がこんな素敵なものになるとは思いませんでした。
私は本当に幸運です。
多大な苦痛を経験して、苦感能力を持つものの生成の悪性に気付きやすい立場に置かれて、無生殖協会を共同設立して、その結果として驚くほど強く尊敬できるヒトに出会って、本当に良かった、と思います(これはただの感情の表現なので、過去の私のウェルビイングをひどく軽視する無礼と、論理破綻かも知れないものは見逃してください……とはいえ、私の過去の苦痛を正当化する苦痛主義的に正当な方法はあると私は考えますが)。
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