この私が別の時代に生まれるということはあり得なかった――別の時代に生まれる想像上の私は私ではない――ので、「(別の時代に生まれた場合と比較して)この時代に生まれて良かった」と言うことができないのは分かっています。
それでも、Formula 1 ファンとしては直観的にそう思わざるを得ません。
これは他のいくつかのシーズンと並ぶ最高級のシーズンの一つだ、あるいはこれが間違いなく史上最高のシーズンだとさえ自信を持って言い切れるような2021年をリアルタイムで生きて目撃したことの栄誉は、恐らくセナプロ時代、アロシュー時代を目撃した人々が経験し、その時代を生きなかった人々が “運悪くタイミングを逃し” て経験できなかったそれと似たようなものなのだろうと思います。
レースコントロールによるアブダビでのレギュレーションの曲解やサウディアラビアでのフェルスタッペンの “ブレーキテスト” 疑惑、ブラジルでスチュワードが示した不可解なドライビング・スタンダードなど、決してクリーンとはいえない出来事が続いた2021シーズンでしたが、史上最高のレーシングドライバーとレーシングチームがお互いを限界まで追い込んだこの1年間は、間違いなく私の人生を生きる価値のあるものにしてくれました。
予想の答え合わせと総評
開幕前にブログポストで今季の最終結果を予想していましたので、実際の結果と比較してどこまで正確だったか見てみます。
コンストラクターズ・チャンピオンシップ
実際の結果 | 予想順位 | 差 | ||||
1 | Mercedes | Hamilton | Bottas | 613.5 | 1 | ◀0 |
2 | Red Bull | Verstappen | Perez | 585.5 | 2 | ◀0 |
3 | Ferrari | Sainz | Leclerc | 323.5 | 6 | ▲3 |
4 | McLaren | Norris | Ricciardo | 275.0 | 4 | ◀0 |
5 | Alpine | Alonso | Ocon | 155.0 | 5 | ◀0 |
6 | AlphaTauri | Gasly | Tsunoda | 142.0 | 7 | ▲1 |
7 | Aston Martin | Vettel | Stroll | 77.0 | 3 | ▼4 |
8 | Williams | Russell | Latifi | 23.0 | 9 | ▲1 |
9 | Alfa Romeo | Raikkonen | Giozinazzi | 13.0 | 8 | ▼1 |
10 | Haas | Schumacher | Mazepin | 0.0 | 10 | ◀0 |
フロアの規定変更の影響は私の想像以上に大きなものでした。
メルセデスとレッドブルの順位については予想が当たったとはいえ、乗れているドライバーが乗ればレッドブルにはメルセデスと互角の、場合によってはそれ以上のペースがあることは予想外でした。
ドライバーズチャンピオンシップの結果に照らせば、このコンストラクターズの結果はエイドリアン・ニューイ作品への適応の難しさを物語っていると言えるでしょう。
お粗末な2020年からのフェラーリの躍進は見事でした。
個人的にはランドが所属するマクラーレンにコンスト3位を獲って欲しいものでしたが、移籍したサインツと長期契約済みのレクラークは、外から見る限りとても健全なチームメイトとしての関係を築いてチームを前進させることができているようです。
ヴェッテル/レクラーク時代の毒気のある雰囲気はすっかり感じられなくなりました。
メルセデスの相対的な戦力低下と同じ理由で、アストンマーティンの7位も意外でした。
アストンマーティンの60年ぶりのF1復帰がこのような結果に終わったことは理想的ではありませんね。
バクーでの表彰台がせめてもの救いでしょうか。
ウィリアムズはポイントを稼げるところで最大限稼ぐことができるよう、風の弱い穏やかなコンディションで最大限のパフォーマンスを発揮するマシンを持ち込みました。
このアプローチは当たりでしたね。
スパのポディウムは間違いなく今季最大のハイライトでしょうし、ラッセルがQ2に進出しないことの方が驚きになるほどの予選パフォーマンスの高さは(車両規定が大きく変わるとはいえ)来季以降への期待を膨らませます。
ドライバーズ・チャンピオンシップ
実際の結果 | 予想順位 | 差 | |||
1 | Max VERSTAPPEN | Red Bull | 395.5 | 3 | ▲2 |
2 | Lewis HAMILTON | Mercedes | 387.5 | 1 | ▼1 |
3 | Valtteri BOTTAS | Mercedes | 226 | 2 | ▼1 |
4 | Sergio PEREZ | Red Bull | 190 | 4 | ◀0 |
5 | Carlos SAINZ | Ferrari | 164.5 | 13 | ▲8 |
6 | Lando NORRIS | McLaren | 160 | 8 | ▲2 |
7 | Charles LECLERC | Ferrari | 159 | 12 | ▲5 |
8 | Daniel RICCIARDO | McLaren | 115 | 6 | ▼2 |
9 | Pierre GASLY | AlphaTauri | 110 | 11 | ▲2 |
10 | Fernando ALONSO | Alpine | 81 | 9 | ▼1 |
11 | Esteban OCON | Alpine | 74 | 10 | ▲1 |
12 | Sebastian VETTEL | Aston Martin | 43 | 5 | ▼7 |
13 | Lance STROLL | Aston Martin | 34 | 7 | ▼6 |
14 | Yuki TSUNODA | AlphaTauri | 32 | 14 | ◀0 |
15 | George RUSSELL | Williams | 16 | 17 | ▲2 |
16 | Kimi RAIKKONEN | Alfa Romeo | 10 | 15 | ▼1 |
17 | Nicholas LATIFI | Williams | 7 | 18 | ▲1 |
18 | Antonio GIOVINAZZI | Alfa Romeo | 3 | 16 | ▼2 |
19 | Mick SCHUMACHER | Haas | 0 | 19 | ◀0 |
20 | Robert KUBICA | Alfa Romeo | 0 | - | N/A |
21 | Nikita MAZEPIN | Haas | 0 | 20 | ▼1 |
ルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンは、(議論の余地はあると思いますが)ほぼ間違いなく現在の Formula 1 で最高のドライバーです。
2021年は、その二人がブラックリーとミルトンキーンズの優れたレーシングチームに支えられて、しばしば3位以下を大きく引き離して互いを限界までプッシュし合いました。
メルセデスの優位性は揺るがないだろうと思ってハミルトンのドライバーズチャンピオンシップ獲得を予想していましたが、この予想はいい意味で裏切られました。
RB16BにはW12と互角、またはそれ以上のペースがあり、マックスは信じがたいほど一貫性のあるパフォーマンスでそれを引き出しました。
リタイアしたレースおよび “ボウリング場” と化したハンガリーGP以外は全て優勝、または2位――それも、クラッシュは全て自身のミスではなく外的要因によるものです。
これがどういうことか考えただけで、マックスがどんなに恐ろしいドライバーか分かります。
「チーム・レクラーク」かと思われたフェラーリに移籍したサインツが上手にSF21を乗りこなし、最終結果でレクラークを上回ったことには感銘を受けました。
マクラーレンが(レッドブルほどではないにせよ)ある程度特殊らしいクルマのせいでリカードの適応に長い時間をかけてしまったのとは対照的です。
ギャズリーは高いパフォーマンスを安定して発揮し、チームがこれまでのシーズンで稼いだ1年あたりの得点数の記録(トロロッソ/アルファタウリとしての2006-2020年)を一人で上回ってしまいました。
アルファタウリのファンとしては、角田がルーキーとして苦労している間にも安定して得点してくれる彼の存在は本当に頼もしいものでした。
おかげで角田のランキングは予想通り14位でありながら、ギャズリーは予想より2つ上の9位、チームも予想より1つ上の6位となりました。
終わってみれば無得点はハースの2人とスポット参戦のクビツァのみ。
2020年と同じく13人ものドライバーが表彰台を記録した、非常にエキサイティングなシーズンでした。
全22戦の(主観的)評価
史上最多の22戦が開催された2021年の全GPを、私の評価に基づいて tier list に配置します!
Great、very good、good、okay、get in the bin(ゴミ箱行き)の5段階です。
* R22 Abu Dhabi: Great race but also get in the bin please
史上最多22戦のシーズンで「okay」以下のレースが6つしかないのですから、やはり驚異的なシーズンでした。
第9戦オーストリアが「not good」に終わったことは、レッドブルリンクが私のお気に入りのトラックであるだけにとりわけ残念です。
個人的には、レースコントロール/スチュワーディングへの不信感が特に強まった一戦でした。
「並びかけられたら相手を外に押し出せばいい」というドライビング・スタンダードをスチュワードが過去に確立してしまったために、この日のスピルバーグではランドがチェコを押し出したりチェコがレクラークを押し出したりして、露骨に汚いバトルが展開されました。
それに対してスチュワードがようやく「うーん、やっぱ押し出し汚いからダメ!」とまともな判断を突然下し始めたことで、ルールの範囲内でできる限りのことをするというアスリートとして当然のことをしていたドライバーたちが罰せられたのです。
私が最高評価を下したいのは4レース――アゼルバイジャン、ハンガリー、ロシア、そして最終戦アブダビです。
アブダビについては、例外的に「great」と「get in the bin」tiers の両方に入れているので説明が必要ですね。
終盤のセイフティカー明けのプロセスがレースコントロールによって恣意的に “操作” されたことは残念でなりません。
しかしながら、それが作り出したタイトル争いの最終章・最終段落は筆舌に尽くしがたいものでした。
少しばかり悪趣味な残酷さと、劇的な形成逆転の完璧さと、F1史上最高のタイトル争い(の一つ)が今この1周で決着してその結果がヒトの世の続く限り歴史書に刻まれるのだということの重みが相まって、観ている私は椅子に座っていることができませんでした。
素晴らしいタイトル争いの決着の舞台がこのように作られたことについて、称賛されるべきヒトはいません。
マックスとルイスの間の周回遅れのドライバーだけがアンラッピングを許されたことは、スポーツとしての公平性を損ないました。
その結果が(陳腐な言い方ですが)歴史に残る美しいファイナルラップの決闘だったわけですが、結果の良さがそこに至るまでの過程の違法性を取り消すことはできません。
A氏とB氏の生殖によって開始されたC氏の人生が実際に素晴らしいものになったからといって、A氏とB氏による他者の人生の開始というギャンブルの危険性が否定されないのと同じです。
ともかく、アブダビのファイナルラップはそれだけで最高評価に値するものであり、しかしそれを可能にした(あろうことか競技者ではなく)レースコントロールによるレギュレーション違反はスポーツの公平性を文字通り根本から毀損したので、このレースには同時に最高・最低評価を下さなければならないということです。
私が「very good」と評したネザーランドとカタールは、レース内容だけで言えばあまり人気のあるチョイスではないかも知れません。
この評価にはレーストラック自体の質の高さが強く影響しています。
特にザントフォールトは、レッドブルリンクに並んで私の世界一のお気に入りトラックになったような気さえします。
来季への期待
レースコントロールのおかしさはマイケル・マシの解任で済む問題ではないと以前から指摘されてきました。
結局マシはレースディレクターの職から降ろされましたけれども、FIAはそれに加えて新たなレースディレクションの仕組みの導入も発表しました。
構造上の問題への対処がきちんとなされていることは大変喜ばしいことです。
1年遅れでデビューする全く新しいグラウンドエフェクトカーも、今のところ意図された効果を発揮しそうだと思って良さそうです。
名前だけ撤退した Honda がレッドブル/アルファタウリと共に新時代をいい形でスタートすること、そしてランドが待望の初優勝を挙げることにも期待したいものです。
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